スペインかヨーロッパからお読みになっている方は、たぶん分からないかもしれないけど、日本人の方にはきっと知っていると思います。もしニックネームで紹介してみれば…

この度、欧米では「Naruto2413」というニックで有名で優れた音楽家の「なると」さんに伺います。なるとさんはそれぞれのシステムや音源ICを使いこなしていて、MSXをはじめファミコンやメガドライブなどの音源でも作品を出しています。

なるとさんの作品はTwitter、YouTubeやBandcamp上で配信中ですし、そのプラットフォームで聴いたり購入したりできます。それに、MSX FANに掲載された「Shining Crystal ~水晶の守護神~」やMSX用の同人ソフトの数々、最近発売された「キャラバン・ブーマー」というゲームにも携わっています。MSXに限らず、WindowsやNintendo Switch(「Away: Journey to the Unexpected」や「Axe, Bow & Staff」、「封魔戦記エルドギア」など)、携帯用のゲームでも作曲や編曲、効果音などを担当しています。

音楽家としてのキャリアは、1990年ごろ始まったそうです。その多くの作品は、OPX、BGMやMPKなどのフォーマットを対応するMSX用の「MPX」という素晴らしいプレイヤーで再生して楽しめます。実は、日本ではライブでも活躍しているそうです。今日はもう少し詳しく触れましょう。

MOAI-TECH: まず、インタビューの案件にさっそくのご返信に感謝の気持ちを伝えたく思います。なるとさんとのやりとりができて、色々お話を伺うことができて、非常に嬉しく思います。よろしくお願いします。

Kazuhiko Naruse: こちらこそ、貴重な機会をありがとうございます! 海を越えてMSXが繋いてくれたご縁、僕も本当に嬉しいです。よろしくお願いします。

初めてのマイコンやゲーム機は何でしたか?今でも保管しているシステムはどれですか?

最初のゲーム機はカセットビジョンJr.でした。そして、最初のパソコンはもちろんMSXです。MSX2 (HB-F1)、MSX2+ (FS-A1FX)、MSX turboR (FS-A1ST) と買い替え、家庭の事情で一度は手放してしまったのですが、数年前にRi-MSXさんという素晴らしいクリエイターのご厚意で再びA1STユーザーになりました。ちょっと話は逸れますが、彼らが学生時代に作ったMSX turboR用の格闘ゲーム「Brain Drive」もすごいですよ!

コンピューターやゲーム機の音楽に、いつから興味を持つことになりましたか?

1985年前後、まだ10歳前後の頃でした。MSX、ファミコン、そしてアーケードで素晴らしいゲームミュージックの数々を耳にして、どんどん夢中になっていったんですよね。

ヨーロッパでは、DMR2などの音楽家と共に90年代半ばに作曲された作品から初めて聴きました。それは、こちらで日本から直輸入していた「MSX FAN」または「MSX Magazine」という雑誌、それから「MuSICA」などのプレイヤーソフトのおかげでした。なるとさんの音楽は、いつから雑誌に掲載することになりましたか?「MSX FAN」以外に、「MSX Magazine」または「PopCom」や「Oh!」などの雑誌にも投稿したことがありますか?

最初に投稿したのは1990年、「マイコンBASICマガジン」のゲームミュージックプログラムコーナーでした。が、これはその名の通り、既存のゲームミュージックを耳コピしてBASICのPLAY文で再現したプログラムだったので、自分の曲としては「MSX FAN」の1992年2月号が初掲載となります。

1996〜1997年ごろ、Bandcampでも配信中の「Submitted SC-55」というアルバムに収録されている楽曲は「Tech Win」誌に投稿したものだそうですね。これは雑誌での最後の投稿でしたか?または今でも出版社側からこのようなコンテンツが求められていますか?

そうですね…それが最後の投稿となります。当時はSC-55というMIDI音源モジュールを使っていましたが、これらの曲も実はMSX-MIDI環境で作ったんですよ。A1STに「μ・PACK」というMIDIカートリッジを接続して長年愛用していました。しかし現在は、楽曲を雑誌に投稿するという文化そのものがほとんど見当たらなくなってしまいましたね…。

なるとさんが貢献していた雑誌についてですが、作曲コンテストなどで受賞されたことがありますか?他の音楽家との繋がりができましたか?

人と競うことがあまり好きではないので、積極的にコンテストなどには応募しませんでした。が、「MSX FAN」のスーパー付録ディスクのタイトルミュージックとして自分の楽曲が採用された経験はとても大きく、その後、正式な仕事の依頼を頂けるきっかけにもなりました。

2000年代初頭の携帯電話にはFM音源チップが搭載されていて、実はそれらのプリセット着信メロディや効果音などの一部も僕が手がけているのですが、そのきっかけも発注元の担当者さんがMSX FANの頃から僕を知ってくださっていたおかげだったんですよ。

また、当時のMSX FAN を並木学さんもお読みになっていたらしく、今でも僕の名前を憶えてくださっていたと知ったときは激しく興奮しましたし感激しましたね!

あと、雑誌以外では、ファミコン音源コンペティションの「FAMICOMPO」にエントリーした「Artificial Intelligence Bomb」という曲がおそらく拙作の中では最も広く知られていると思うのですが、エントリー当初は匿名だったにもかかわらず「MSX FANっぽい感じがする」と正体を見抜かれたりなど、コミュニティの中でMSX FANという雑誌がいかに大きな存在だったかを実感しました。

当初、どのハードを使ってBASIC言語で初めての作曲をされましたか?

初めてBASICに触れたのは9歳か10歳のころに友人から借りたファミリーベーシックでしたが、その翌年にMSX2 (HB-F1) を手に入れ、すぐにMMLで作曲を始めました。おかげでMMLが手に馴染みすぎて、実は今でもピアノロールやステップエディタよりもMMLのほうが素早く音符を打ち込めるんです。楽譜の代わりにメモしたMMLを見ながら楽器を演奏することもあります(笑)。

現在、ご利用になっているコンピューターシステムや音源ハードは何ですか?

今はほとんどWindowsで制作してまして、普段はCubaseを使っています。そして、いわゆるチップ音源 (PSGやFM音源など) の楽曲もWindows上で動くMMLコンパイラやプレイヤー、エミュレータでほぼ仕上げてから実機で鳴らして微調整する感じです。

特にWindows上でのMSX用の楽曲制作において、DSAさんのMSXplugとMSGC、そしてhex125さんのMummlが欠かせません。Mummlはテキストファイルのタイムスタンプを監視して、タイムスタンプが更新されると自動的にコンパイラやプレイヤーなどを実行してくれるアプリケーションです。MSXplugとMummlのおかげで、「テキストエディタでMMLを書いてCtrl+Sキーを押すだけでOPLLなどの音が鳴る」という快適な環境を実現できています。お二方には頭が上がりません…!

また、今はPSG用ツール「NDP」を自作しています。これもWindows上でMMLを打ち込んでPSGを鳴らせるアプリケーションですが、これで作った曲のバイナリはもちろんMSX実機でも鳴らせるものになっています。

(まだアプリケーション自体はクローズドベータテスト中ですが、Twitter (X) を「#MSXNDP」というハッシュタグで検索すると、NDPを使ってくださっている方々の素晴らしいPSG作品の数々を聴けます!)

今までご利用になったコンピューターやゲーム機の音源ICの中では、一番お好みのものはどれですか?

一番は決められませんが、特にPSG、OPLL、OPL3、SCCが大好きです!

だいぶ前から、ボーカリストとともにチップチューンコンサートで演奏したり、バンドのメンバーとしても活躍されているそうですね。バンドではどんな音楽を演奏されていますか?舞台上での生演奏と自宅での作曲と、どちらの方がやりやすいでしょうか?

1980~1990年代の日本のアニソンっぽいアップテンポな曲も好きなので、バンドではそのようなスタイルの楽曲を中心に演奏しています!

ただ、真白 彩(あやまじろ)という素晴らしい実力を持つボーカリストと出会わなければ、バンドは続けていなかったかもしれません。

そういう意味では僕個人のスタイルに向いているのは制作のほうだとは思うのですが、「メンバー全員で同時に音を出してこそ得られる響き」にも魅せられていますので、どちらが良いとは比較できないくらいバンドのことも大好きです!

ライブハウスの大口径スピーカーから感じられる音圧、さらに言えば風圧。これらは自宅ではなかなか得難いもので…気持ちいいんですよね。

僕のことを昔から知ってくださっている方々にライブハウスにまで足を運んでいただけるようになるのが、僕の大きな夢のひとつです。

ゲームだけではなく、昔の音源ICで作られた音楽が大好きなファンが今でもこんなに多くて、びっくりしたりされますか?

僕も音源チップのファンの一人なので、同志の多さに感動しつつも、同じものを好きだと言える嬉しさと安心感もあったりします!

なんせ僕の子供時代は「ゲームミュージックが好き」と言うだけでも、大人からは「こんな音を好きだなんて…」と異端児のように扱われていた時代だったので…堂々と言える時代になって、感慨深いんですよね。

作曲において、どんな音楽に影響されているのでしょうか?

昔のゲームミュージックはもちろん、アニソンやJ-POPの影響も大きいと思います。僕はコード進行にこだわりがちですが、音楽の基礎、また特に日本特有のコード進行の多くはそれらの楽曲から学びました。

16歳ぐらいの頃に和声学の楽典などを読んで、「あ!これはあのゲームで聴いた和音だ!」と気づいたりなど、すでにゲームミュージックから学んでいたことも多かったりして。

ゲームミュージックって、最高の教材でもあるんですよね。

特にお気に入り、または実際にお会いできれば嬉しいと思われるゲームミュージック作曲家はどなたでしょうか?

挙げるとキリがなくなってしまいますが…特に冨田茂さん、大野木宜幸さん、近藤浩治さん、細江慎治さん、星恵太さん、そして新田忠弘さんを尊敬しています。

新田さんご夫妻と先日初めてお会いできた時は感激のあまり、目が潤んでしまいました。ご夫妻とも素敵な音楽をなされていて、お人柄も素晴らしくて!

ゲームはプレーされますか?一番楽しんだゲームは、どのハードでどんなタイトルでしょうか?

これまた挙げるとキリがなくなってしまいますが…MSXに限ると、当然コナミMSXチームのゲームはどれも大好きです! 特にグラディウスシリーズ、スペースマンボウ、ソリッドスネーク…かなり長くの時間を費やしてプレイしました。

それにMSX2+用「レイドック2」も、TOMMY節全開のOPLLサウンドとゲームの面白さが最高にマッチしていて気持ちよかったですね。

そして、マイクロキャビンのMSXturboR用「幻影都市」。オープニングで「THEME-A」のサウンドが流れた瞬間に「これはもはや映画音楽だ…!」と震えるほど激しく感動して、一気にゲームの世界に引き込まれました。ドット絵によるゲーム中のアニメーションも素晴らしくて…のめり込みましたねー!

あと、アーケードではスペースハリアーやアフターバーナーなどのセガ体感ゲームに夢中になったり、ガントレットを同級生と遊んだり、ドラゴンスピリットの筐体にヘッドフォン端子が付いていて狂喜乱舞したり、ファミコンではロックマンにハマったり…こうして振り返ってみると、あまりマニアックなゲーマーとも言えなくて、有名どころを満遍なく楽しんでる感じですね(笑)。

お時間をいただきまして大変感謝しております。これからも、なるとさんの作曲が楽しめますように、何卒よろしくお願い申し上げます。

こちらこそ、本当にありがとうございました。MSXの音楽も作り続けていきますので、今後ともよろしくお願いします!



 
   

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